お釈迦様は、二人の指導をスブーティーに任せた。スブーティーは、弟子の中でも「解空第一」と称されるほど、空を理解した弟子であった。
スブーティーは、二人に仏教教団内での生活習慣から教えていった。
二人はよくスブーティーの教えに従った。とくに弟のタルバは、素直にスブーティーの言うことを聞いた。そして、スブーティーの手助けをよくしたのであった。ス� ��ーティーは、目が見えなかったので、細かな仕事はできなかったのである。
「すまないね、タルバ。世話になるね、ありがとうよ。」
「そんな・・・尊者様にそのようにいわれるなんて・・・・、もったいないです。」
「いやいや、手伝いをしてもらったのだから、お礼を言うのは当り前であろう。ありがとうということに、師であるとか弟子であるとかは関係のないことだ。わかるかね。ありがたい、と思った時は、素直に礼を言えばよいのだよ。それに身分の上下などは関係のないことなのだ。身分や立場にこだわって、よくしてもらうのが当然、などと思えば、それは驕り高ぶった心になってしまうのだよ。親切にしてもらったら、相手がだれであろうと、お礼を言うべきなのだ。」
「はい、わかりました。スブーテ ィー尊者様、身分や立場にこだわらず、素直にお礼が言える人間になります。・・・はい、袈裟のほころびが縫えました。」
「ありがとう、タルバ。助かったよ。」
そんな様子を傍から見ていた兄のサルバは、
(ふん、弟の奴め、うまいこと尊者に取り入ったな・・・。昔からあいつは器用だったからな。性格は暗いくせに・・・。まあ、いいや。いずれにしても先に尊者になるのは俺だからな。教団内での信望も、俺のほうがあることだし。それにしても、スブーティー尊者もいい加減にあのボロボロの袈裟を捨てればいいものを・・・・。)
と思っていたのであった。
確かに、教団内での評判は兄のサルバのほうがよかった。明るく、与えられた仕事はテキパキとこなしていった。物覚えも早く、教団内の生活にも早 くに慣れていった。一方、弟のタルバはおとなしく、なにを教えても、わかっているのかいないのか、いま一つはっきりとしないところがあったのだ。勘違いをすることもしばしばあったためでもある。しかし、素直な性格からか、教団内では可愛がられていたのも確かだった。
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「すみません、間違えました。」
弟のタルバが、他の修行者から注意をされて、謝っていた。
「いや、いいのだよ。間違えることは誰にでもある。同じ間違いをしなければいいのだ。わかるね。」
「はい、わかりました。今後気を付けます。」
タルバは、深々と頭を下げていた。注意をしていた修行者は優しく微笑んで、その場を去っていった。
「タルバ何を謝っていたのだ?。」
ちょうどそこに兄のサルバが通りかかったのだ。
「はい、先輩の修行者の鉢を洗っておく仕事があったのですが、間違えたのです。」
「間違えたとは?。」
「洗ったことはいいのですが、置き場所を間違えてしまったのです。それで、謝っていた� �です。」
「なんだ、そんなことか。それなら、何もあそこまで頭を下げることはないのに。頼んだほうも悪いのだ。」
「いや、そんなことはないですよ。間違えたのは私ですから。謝るのは当然です。」
「ふ〜ん、そんなものかな。まあ、いいけどね。」
そこへ、別の修行僧がやってきた。
「お〜い、サルバ、君は沐浴所の清掃当番じゃなかったかね?。まだ、掃除が終わっていないようだが・・・。」
「あ、はい、今行きます。大丈夫です。すぐに終わりますから。」
「忘れていたのではないんだね。ならばいいが・・・。」
「忘れてませんよ。今、弟にちょっと教えることがあったんで、話をしていただけです。これから行こうと思っていたところです。」
(まったくうるさい先輩だ。俺よりちょっと 早くに出家したからと言って、偉そうに注意しやがって。いわれなくてもわかってるっていうのに・・・・。)
内心では文句を言いながら、サルバは沐浴所のほうへとさっさと行ってしまった。
「何か悪いこと言ったかな?。サルバは機嫌が悪かったようだが・・・。」
その先輩の修行僧は怪訝そうな顔をして、修行所のほうへと去っていった。
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こんなことがしばしばあった。誰かが、サルバに注意をすると、
「わかってますよ。」
という返事しか返ってこないのだ。就寝房の整理をしていた時など、こんなことがあった。
「サルバ、それはその場所じゃないよ。それはこっちの棚に収めるのだよ。」
「え?、そんな決まりあるんですか?。」
「いや、決まりはないが、習慣でそうなっているんだ。」
「ならば、どこに置いてもいいじゃないですか。いけないんですか?。」
「いけないってことはないが、一応習慣でそうなっているから、次に使う者が面倒じゃないか?。探さなければいけないよ。いつもの場所にあるべきものがないとなると、困らないかい?。」
「そうです� �?。私は困りませんが・・・。探せばいいことだし。ここに置いちゃいけない正当な理由がないなら、いいじゃないですか。どこにに置こうが、こだわらないのが空なんでしょ。」
「空・・・ねぇ、ちょっと意味が違うが・・・・まあいいよ、そういうことなら。あとはやっておくから。」
「なんですか、その言い方は。私が邪魔なんですか?。」
「邪魔だとか言ってないよ。・・・・どうしたんだサルバ。この頃、イライラしてないか?。」
「別に・・・。何もありませんが。」
「ならいいんだが・・・。もう少し、素直に話を聞いたほうがいいと思うよ。・・・まあ、大きなお世話かもしれないけどね。」
「はいはい、そうですねっと・・・。私のほうは終わりましたが。」
「あぁ、そうかい。じゃあ、いい� ��。御苦労さま。」
そういわれてもサルバは何も答えず、さっさとその場を離れていくのであった。
万事、この調子であったため、サルバは次第に浮いた存在になっていった。スブーティーは、このことを心配していた。
(もっと、皆と協力しあえばいいのだが・・・。他の意見も取り入れて、周囲との協調で物事を築くことを知ったほうがいいなぁ・・・・。しかし、難しいな、あの性格は・・・・。)
そんなある日のこと、スブーティーは、サルバを呼んでこう告げた。
「サルバ、次の布薩の会は、我々の班が担当になっている。それは知っているね。」
「はい、知っています。」
「布薩の会の準備は大変だ。ここに集まる修行僧のすべての食事の手配と座を設けねばならない。座る順番も重要だ。順序を間� ��えると、中には怒りだす修行僧もいる。」
「修行者の癖にそんなことで怒るんですね。」
「あぁ、そうだね。修行が足りないんだな。しかし、揉め事はなるべくないほうがよい。そこでだサルバ、次の布薩の会の責任者をやってくれないか。」
「私がですか?。それは・・・・、はい、わかりました。引き受けます。」
(やっと、スブーティー尊者は俺を認めてくれた。俺の実力がようやくわかったんだな。よし、やってやるぞ。)
「そうか、引き受けてくれるか。それじゃあ、頼むよ。先輩の修行僧に聞くといい。彼らは以前に布薩の会の仕切りを経験しているからね。私のほうからも、彼らに協力するように言っておきます。みんなで協力しあって、準備を進めるように。頼みますよ。」
(よしよし、やっと大� �な仕事がやってきた。協力しろ?。大丈夫さ、俺一人でできるよ。まだ日にちは、二週間もあるし。すぐに準備できるさ。あははは・・・。)
サルバは、大きな仕事を任されたことに鼻高々だった。
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日にちは過ぎていき、あっという間に10日がたっていた。
「スブーティー尊者様、起きていらっしゃいますか?。」
その夜のこと、弟子のひとりがスブーティーの僧房を訪ねてきた。
「あぁ、起きてますよ。お入りなさい。・・・どうしたのかね、こんな刻限に。」
「はい、サルバのことですが・・・・。実は、彼、何も準備をしていません。」
「な、なんですと?。布薩の準備をしていないのですか?。」
「はい。サルバは、我々にも何も聞こうとしません。2〜3日前も気になったので、『サルバ、布薩の準備はできているのか?』と尋ねたんです。すると、『もちろん。大丈夫ですから。』とだけいうんですよ。」
「それで、大丈夫じ� ��ないのかね?。」
「はい、何の準備もしていないようなのです。弟のタルバにも聞いたのですが、どうも何もしていないようだと・・・・。」
「ふむ・・・、それは困ったなぁ・・・。仕方がない。食事の準備と席順を皆で準備しましょう。あぁ、こちらで準備していることはサルバに気付かれないように。ひょっとして、彼にはあてがあるのかも知れませんし。もし、食事が重なっても大丈夫です。午後の参拝に来られる人々に分け与えればいいのですから。明日、早速準備に取り掛かりましょう。あと、4日しかありませんからね。私も心当たりのある信者さんに頼んでおきます。皆さんにも頼むように。お願いしますね。」
スブーティーは、その弟子にそういうと、神通力でサルバの様子を探った。サルバは、一人、考� �込んでいた。
(あぁ、どうしよう・・・。偉そうなことをいったまではいいが、困ったなぁ・・・・。どうやっていいんだか、さっぱりわからない。いまさらスブーティー尊者には聞けないし・・・。先輩の大徳に聞くのもなぁ・・・。そもそも先輩の方々が、俺に声をかけてくれればいいんだ。放っておかないで・・・。タルバもタルバだ。少しくらい気を遣って、俺の心配をしてくれればいいものを・・・・。あぁあ、・・・そもそもこんな大仕事を俺に押しつけたスブーティー尊者が悪いんだ。もう知らない。そうだ、みんなスブーティー尊者が悪いんだ。さて、寝るか。)
サルバの心を知ったスブーティーは、ひどく悲しくなったのだった。
布薩の会には、お釈迦様をはじめ、近隣の各地の精舎で修業を行っていた修行僧たちが続々と集まってきた。サルバは、その日、恐る恐る起き出してきた。自分では、何の準備もできなかったのである。
しかし、布薩の会の会場に行って、サルバは驚いた。食事の準備もできているし、席順も既に決まっていて、先輩の修行僧たちや弟のタルバが、案内などをして働いていたのである。
サルバは呆然と立っていた。何をしていいのかすらわからなかったのだ。それでも、会は着々と、滞りなく進んでいった。会も終わりが近づいたころ、サルバはとぼとぼとその場を去ろうとしていた。
(俺が責任者なのに・・・・。俺を無視して・・・・。なんだ、準備ができてるじゃないか。俺� ��んていらないんだ。俺は除け者か?。邪魔なのか?。俺は何だ?。もういいや。どうでもいいや・・・。)
そのあたりの草を蹴り飛ばしながら、サルバは不貞腐れて歩いていた。
ふと、目の前に人影があった。お釈迦様であった。お釈迦様は厳しい目をしていた。
「何をしているのだサルバ。君は、今回の布薩の会の責任者ではなかったか?。どこへ行こうというのだ?。」
「お言葉ですが、私は何もしていません。みんな、私を無視しているんです。今日の布薩会の準備も、私は何もしていません。知らない間にできあがっていました。誰も、私のことなど当てにしていませんから、いなくてもいいんです。」
「いい加減に目を覚まさないか、サルバ。なぜ素直にならぬのだ。なぜ素直に『申し訳なかった』と言えな� ��のだ。」
「私が悪いことなど何もありません。みんな・・・スブーティー尊者が悪いんです。謝るなら尊者のほうでしょ。」
「ほう、スブーティー尊者が、君に何をしたのかね?。」
「こんな、私にできもしない大仕事を押し付けたじゃないですか。」
「押し付けたのかね?。断ることはできなかったのかね?。自分にはまだ早いです、と言えなかったのかね?。」
「そんなこと言えないでしょ。尊者の頼みですから。」
「嘘をつくでない!。君は、この仕事が来たとき、喜んだであろう。」
その言葉にサルバは何も言い返すことができなくなった。
「しかもだ、皆に協力してもらいなさい、と言われてないか?。」
「誰も私に協力などしてくれませんよ。」
「頼んでみたのか?。スブーティー尊者か ら役目を言い渡されたとき、すぐに皆に協力を求めたのか?。まだ、2週間もありますから大丈夫です、と答えたのはどこの誰なのだ!。」
お釈迦様の追及は厳しかった。その言葉に、サルバは、泣き崩れたのだった。
「どうしていいか、わからなかったんです。どうしていいのか・・・・。あぁぁぁ・・・。」
サルバが落ち着くまで、お釈迦様は見守っていた。
「サルバよ、なぜ素直に謝ることができないのか。弟のタルバが素直に非を認めていても、汝は謝る必要はない、と言ったであろう。先輩の修行僧から注意を受けても、『いいじゃないですか、そんなこと』と言って、謝ろうとしなかったであろう。なぜ、汝は謝らぬのだ。」
「その・・・・つい・・・・。謝ると・・・なんだか、自分がバカにされているようで・・・。」
「何を勘違いしているのか。よいかサルバ。誰もバカになどしていないであろう。素直に自分の非を認めなければ、進歩も成長もしないであろう。汝は、今の汝のままで何も変わぬのだよ。否、むしろ悪くなる一方だ。
よいかサルバ。素直に謝る者には平穏がやってくるのだ。汝のように素直に謝ることがで� ��ぬものには、孤独しか来ない。今の汝のように・・・・。なぜだかわかるかね?。」
お釈迦様の問いに首を横に振るばかりのサルバだった。
「汝に注意をしても無駄だ、汝に話をしても無駄だ、とみんなが思っているからだ。汝が、素直にみんなの話を聞かないからなのだ。汝に注意をしても、汝に何かを教えても
『いいじゃないですか、私の好きなようにやりますから』、『あぁ、そうですか、ふ〜ん』、『わかってますから』
としか返ってこないであろう。一度でも
『ありがとうございます。以後気を付けます』、『申し訳ございませんでした、気を付けます』
という言葉があっただろうか?。そんな者、誰も相手にしなくなるのは当然であろう。誰もが、
『あいつに何か言っても文句を言われるだけだから やめておこう。苦労するのは本人なのだから』
と思うだけなのだ。
よいかサルバ、汝は他人からの親切を、ことごとく踏みにじっているのだよ。それでは、協力し合うことなどできないであろう。素直になるのだ、サルバ。素直に謝ることができなければ、いつまでも汝に孤独は付きまとうであろう・・・・。」
お釈迦様はそう言い残すと、静かに去っていったのだった。一人残されたサルバは、大声で泣き叫んでいた。
翌日のこと、スブーティー尊者のもとには、彼が指導をしている弟子たちが全員集まっていた。昨日の布薩会について反省点を話し合っていたのだ。そこへサルバがやってきた。そして、
「申し訳ありませんでした。すべて、私が間違っていました。許していただけるなら、どうかお許しください。� ��
そういって、サルバは土下座をし、深く深く頭を下げたのであった。スブーティー尊者は
「わかったかね、サルバ。今後は素直になるがいい。そして、自分をよく見つめることだ。決してうぬぼれることなく、周りの注意をよく聞いて、正すべきは正しなさい。謝る勇気、頭を下げる勇気を持つことだ。さぁ、一緒に修行をしよう。」
と優しく言った。その言葉に異を唱える者は一人もいなかった・・・・。
去年は、結構大人のみなさんが謝っていましたねぇ。記者会見の席で並んで頭を下げる大人たちを何度見たことか。まあ、素直に謝ってもらうのはいいですけど、はたして本当に悪いと思っているかどうか・・・・。
謝るんなら、心から謝ってほしいですね。口先だけじゃなく。
それでも、まだ謝るだけまし ですかね。悪いことをしているにもかかわらず、まったく謝ろうともせず、開き直ってしまうヤカラもいますからね、世の中には。立場上、謝ったほうがいい方たちは、恰好だけでも頭を下げますが、一般庶民の場合、なかにはち〜っとも謝ろうとしない方もいるようで・・・・。むしろ、他人のせいにしたりする方がいますからね。
「ここ、間違ってるよ。こうしなきゃいけないんだよ」
と注意をして、その返答が
「あぁ、そうですか。はいはい。」
「いいじゃないですか、それくらい」
だったりすると、ムカつきますよね。
「おいおい、それはないだろ、ひとこと『すみませんでした、気を付けます』ってないのかよ」
と思いますよね。で、そんなことが重なると、
「あいつは頭が下げられないやつだ」
というレッテルがついてしまいます。これは、大きな損ですよね。ものすごく残念なことです。やがて、仲間内で浮いてしまい、誰にも相手にされなくなってしまうのです。
素直に謝れない人には、孤独しか残りません。
なぜ素直に謝れないのか。
それは、つまらないプライド� ��あるからです。
「なんで頭を下げなきゃいけないの?、俺様が。」
っていうプライドですね。「俺様」なんて思っているのは、本人だけですからね。素直に謝れない人ほど、人間はできていませんから、偉くもなんともないんですよね。偉そうにしている人ほど、偉くないんですよ。そこに気付かないから、謝れないんですね。つまらないプライドなんてないほうが、大物なんですけどねぇ。
昔の人はいいことを言いました。
「実るほど 頭を垂れる 稲穂かな」
中身のある人間ほど、腰が低いものです。偉そうな態度をとっているほど、中身がないものです。どうせなら、頭を垂れる稲穂にならないとね。
と、書いている私本人も重々反省しなければ・・・・と思っております。ま、とりあえず、謝っておきます か。
新年早々、偉そうなこと言って
「ごめんなさい」
合掌。
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