(1) 肝臓癌(肝細胞癌、肝内胆管癌(胆管細胞癌))
a. 概説
肝臓癌とは、その名の通り肝臓にできる癌のこと指します。特に、肝臓自体から出来てきた'原発性肝癌'と、他の臓器から移ってきた'転移性肝癌'と大きく2つに分けられます。また、原発性肝癌も、肝臓の実質部分(通常肝臓といって想像する赤い実の部分)から発生した肝細胞癌と、肝臓内の管の部分から発生した胆管細胞癌、その他(血管ほか)の部分から発生する癌とがあります。通常、肝臓癌と言うとほとんど(約95%)が肝細胞癌です。肝細胞癌は、他の臓器(胃や腸)のものと大きく異なる点があります。それは、その背景に慢性肝疾患を基礎疾患として発生することが多く、発生母地が明らかな所です。日本では、現在約7割がC型肝炎、約2割がB型肝炎を、他にはアルコール性肝機能障害を基礎疾患とし、これらから� ��硬変になった肝臓から肝細胞癌が発生しています。肝細胞癌による死亡数は1970年代後半から急速に増加しています。現在も肝細胞癌の頻度は増加しており、2003年悪性新生物死亡統計で、肝癌による死亡は男性で肺癌、胃癌に次いで第3位、女性で胃癌、肺癌、乳癌、結腸癌に次いで第5位でした。肝細胞癌はだいたい2015年ごろまで増加し続けるとされています。
b.症状
一般に肝臓は昔から'沈黙の臓器'と称されて来た様に、'痛い'とか、'しこりがふれる'といった明らかな自覚症状がでることは、よほど癌が進んだ状態でないかぎり出てきません。では、どのような方が気をつけたらよいかと言えば、やはり先に言ったようにウィルス性肝炎や、アルコール性肝障害をもっていて、肝臓に注意しましょうと言われたことがある方は肝臓の超音波、CT検査で定期検査を受けましょう。今日の肝臓癌の発見の多くはこのような検査によって偶然見つかることが多いようです。
c.検査
肝細胞癌の検査としては、診断を確定するため、治療方針を決めるために、血液データ測定(腫瘍マーカー)、超音波検査、CT検査、MRI検査、血管造影検査などを行います。腫瘍マーカーとしては、AFPとPIVKA-IIが2大マーカーで、早期癌でもいずれかが陽性になる確立は高く、進行するほど陽性率が高くなるため診断的価値は高いです。AFPは慢性肝疾患でも上昇することがあり、特異性を向上させたAFPのL3分画が最近普及しつつあります。肝細胞癌の画像診断でもっとも有用なのは、造影CT(ダイナミック CT)またはMRIです。ダイナミック CTはヨード造影剤を急速静注し動脈相、遅延相をとらえるものであり、ヨード造影剤を単に点滴静注して行う造影CTに比べはるかに診断的価値が高いです。血管造影下に行うCTAP、CTHAも非常に有用ですが、侵襲的検査であり最近はあまり行われません。ガドリニウム造影剤投与下に撮影するダイナミック MRIや超常磁性体酸化鉄(SPIO)を用いて網内系機能を反映した情報を得るSPIO-MRIは、得られる情報が多くX線被爆もないため、最近特に有用性が高まっています。超音波検査は、非侵襲的であり頻回に施行可能、質的診断能も高いですが、横隔膜下など死角部位がある、肥満症例では診断能が著しく落ちるなどの問題点があります。
d. 治療
肝障害度(表参照)、腫瘍数、腫瘍径などによって治療方針を選択します。肝障害度とは、腹水の有無、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、ICG 15分値、プロトロンビン時間から肝臓の障害度をA、B、Cの3段階に分類したものです。肝硬変の重症度判定基準としてはChild-Pugh分類もよく用いられます(表参照)。
肝障害度 | T | U | V |
腹水 | (-) | 治療効果あり | 治療効果なし |
血清ビリルビン | <2.0 | 2.0〜3.0 | 3.0< |
血清アルブミン | 3.5< | 3.0〜3.5 | <3.0 |
ICG-R15 (%) | <15 | 15〜40 | 40< |
PT (%) | 80< | 50〜80 | <50 |
表:Child-Pugh score
スコア | 1 | 2 | 3 |
肝性脳症 | 0 がんはどのように多くの段階がありますか? | 軽度(I-II度) | 昏睡(III度以上) |
腹水 | なし | 軽度 | 中等度以上 |
血清アルブミン | >3.5 | 3.5〜2.8 | 2.8> |
PT時間(sec) | <4.0 | 4.0〜6.0 | >6.0 |
TB(mg/dl) | <2.0 | 4〜10 | 10< |
※Grade A:5〜6点 Grade B:7〜9点 Grade C:10〜15点
肝細胞癌に対する治療戦略の根幹として"best modality & best approach"を掲げています。ビデオアシストによる小開腹や腹腔鏡補助下で低侵襲の切除を積極的に進めていることに加え、ラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation, RFA)や凍結治療(cryoablation therapy)を腫瘍ごとのサイズや局在によって経皮〜鏡視下(単孔式内視鏡手術'TANKO'を含む*)〜小開腹を置き、切除と組みあわせています。とくに肝細胞癌に対する cryoablation は150例近くにおよび世界有数の症例数となっています。また肝機能が不良で局所治療ができない場合は肝移植の適応を考慮し、幅広い治療の選択肢を提示しています。
*単孔式内視鏡手術'TANKO'については(5)胆石症、総胆管結石の項をご参照下さい。
全国多施設共同研究としては初発肝細胞癌に対する肝切除とラジオ波焼灼療法の有効性に関する多施設共同ランダム化平行群間(SURF-RCT)および前向きコホート研究(SURF-cohort)、肝癌切除術施行後の消化管機能異常に対する大建中湯(DKT:TJ-100)の臨床的効果(プラセボを対照とした多施設二重盲検群間比較試験)、肝細胞癌切除例に対する術後感染予防薬の投与期間に関するランダム化比較試験に参加しています。
肝内胆管癌(胆管細胞癌)に対しては、リンパ節転移を疑う場合の切除適応や郭清範囲は未だ議論が分かれるところですが、症例ごとに綿密な検討を行った上で予後改善の見込みがあれば術前門脈塞栓療法も組み合わせて積極的な手術を心がけています。
治療の詳細を次項に述べます。
e. 治療の種類
1.肝切除
肝臓の解剖に従って系統的に肝切除する系統的肝切除(葉切除、区域切除、亜区域切除など)と非系統的肝切除があります。
肝臓癌において、すべての癌を確実に取り除くと言う意味では肝切除がいまだ一番確実な方法と考えられています。しかし、肝臓という臓器は他の摘出可能な臓器と違い、すべてを取り除いてしまうと人間は生きていけません。それでは、どのくらいの大きさ切除することが可能で、どれだけ残せば生活することが可能かというと、一般的に正常な方の肝臓はその70%を切除しても残りの肝臓で、約3ヶ月経てば元の大きさ、機能が切除前近くまで再生するとされています。しかし、肝臓癌になってしまう方はその肝臓に多かれ少なかれダメージを受けています。このため、それぞれの肝機能に合わせて切除できる量が違ってくるため手術を行う前十分その評価を行ってから、それぞれの方にあった治療を計画します。
2. アブレーション(Ablation)
マイクロ波凝固療法(MCT)、ラジオ波焼灼(RFA)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)などがあります。原理は異なりますが、いずれも経皮的にあるいは開腹下に肝臓に針を刺して腫瘍とその周囲のみを壊死させる方法です。残肝に対する影響が小さいため、肝予備能が低くても施行可能です。一度に広範囲(3〜5cm)を焼灼できるRFAが近年急速に広まりつつあり、当科でも積極的に行っています。
また、当科では、凍結融解壊死療法(cryoablation*)を全国で初めて導入し、通常のアブレーションで対応できない患者さんに行っています。複数の凍結針を同時に使用することで大型の腫瘍を壊死させられる (約10cmまで)、治療範囲(アイスボール)が術中に超音波で確認できること、体表に近い腫瘍に対しても痛みが少なくできる等、さまざまなメリットがあります。ただし、この治療は現在でも非常に限られた施設のみで導入されている治療法で、厚労省の保険認定をまだ受けていないため、原則として費用はすべて自費診療となります。
*凍結融解壊死療法(cryoablation)の実際
のような通常のCRPを見て何をしてい
当科では上記の各種アブレーション治療を、主要な血管・胆管との位置関係、他臓器との位置関係、肝内での位置(肝表面に突出している等)等を考え合わせベストのアプローチ法で行うよう工夫をしています。アプローチ法としては、経皮的治療、内視鏡下治療 (腹腔鏡下 または胸腔鏡下、小開腹下治療などがあります。
3. 肝動脈塞栓療法(TAE)
手術の適応にならない患者様(肝予備能が悪い、腫瘍が広範囲に散らばっている、等)に行われます。腫瘍を栄養する肝動脈にカテーテルを挿入し、塞栓物質や抗癌剤を流す方法です。腫瘍細胞を栄養するのは動脈のみですが、正常細胞は動脈と門脈の双方から栄養されるため、TAEによって腫瘍細胞のみを攻撃することができるという原理に基づいています。門脈が閉塞している場合などは正常細胞も影響を受けるため基本的に適応外となります。
具体的な方法は血管造影検査と同じで、レントゲン室で局所麻酔下に、脚のつけ根の動脈(大腿動脈)からカテーテルを入れて行います。現在用いているカテーテルは、細くてやわらかいため、治療の合併症はほとんどありません。また、肝臓の奥へとカテーテルを進め、癌とその周囲の狭い肝実質領域だけを塞栓する治療も可能で、治療後の肝機能の低下も軽度ですみます。当院では、専門の放射線医師が行い治療時間は30分から1時間程度です。治療中や後に上腹部痛や発熱(39度近いこともあります)がみられることがありますが、時間とともに軽快し、鎮痛剤や解熱剤を使うことでコントロールは容易です。
4. 全身化学療法
最近、海外で切除不能の肝細胞癌に対するソラフェニブ(商品名:ネクサバール)の有効性が示され、本邦でも保険適用となりました。現在、症例ごとに慎重に適応を検討して投与を行っています。
5. 肝移植
肝細胞癌に対する肝移植が2004年1月より保険適応となりました。肝癌が「3 cm、3個以内」、または「5 cm、単発」のいわゆるミラノ基準適合例に保険が適用されています。詳しくは、当科移植グループホームページをご参照ください。
(2) 胆道癌(肝外胆管癌、胆嚢癌)
胆管は、肝臓の中にある肝内胆管と、肝臓の外から十二指腸までを結ぶ肝外胆管とに分けられます。肝外胆管の途中から、胆汁の一時的な貯蔵庫である、胆嚢が枝分かれしています。肝内胆管にできた癌は胆管細胞癌として、肝細胞癌と一緒に取り扱われます。ここでは、肝外胆管癌と胆嚢癌についてご説明します。
肝外胆管癌、胆嚢癌に対して根治を目指す治療法は手術のほかにはありませんが、腫瘍の存在部位および進展様式により術式は多岐に分かれます。また、肝外胆管は、肝十二指腸間膜という肝臓と膵臓・十二指腸の間にある間膜内に存在し、この肝十二指腸間膜内には、他にも門脈や肝動脈という重要な血管も走行しています。そのため、他の臓器癌に比べると、根治術のために重要な血管を合併切除することが多くなります。
肝外胆管は肝門部・上部・中部・下部の4つに区分され、それぞれに癌が発生します。肝門部胆管と上部胆管癌では、胆管に沿った進展範囲と各脈管の位置関係で肝切除の範囲が決定されますが、多くの場合は肝臓を左右どちらか半分を、またはそれ以上を、切除する手術となります。中部胆管癌では、進展範囲により、肝外胆管切除から肝膵十二指腸切除までの術式が考えられますが、多くは膵臓と一緒に切除します。下部胆管癌およびファーター乳頭部癌に対しては、幽門輪温存膵頭十二指腸切除が標準術式となっています。
胆嚢癌に対する手術術式は、進行度によって大きく異なります。腫瘍が胆嚢壁内にとどまっている場合は、胆嚢を切除するだけで良好な予後が得られます。一方、胆嚢の壁を越えた癌においては、腫瘍の主座や肝浸潤、胆管浸潤の形式によって肝切除や肝外胆管切除、リンパ節郭清を追加することが必要となります。進行胆嚢癌において、多く施行される術式は拡大胆嚢摘出術であり、これは胆嚢を含めて隣接する肝臓の一部とリンパ節を一緒に切除する方法です。胆嚢癌が肝臓に広範囲に浸潤している場合は、肝臓の右葉を切除する必要が生じ、また総胆管に癌浸潤が認められる場合は、肝外胆管切除が必要となる場合もあります。膵頭部や十二指腸に強い浸潤を認める場合は、膵頭十二指腸切除が施行される場合もあります。
切除不能の胆道癌や非治癒切除例・再発例に対して、あるいは術後補助療法として、様々の放射線療法や化学療法が提唱されていますが、未だ標準治療とされるものはありません。
肥満はどのような臓器に影響を与えるん。
(3) 膵癌
a. 膵癌の現況と当施設の基本方針
膵癌の罹患率は加齢とともに上昇し、40歳を過ぎたころより急増しています。日本の膵癌罹患率は世界的にみると高く、悪性腫瘍による死因では男性の第5位、女性の第6位を占めています。膵臓には消化酵素を分泌する外分泌組織とインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌組織があるため、膵癌の組織像は非常に種類が多く様々な形態をとってきますが、膵癌の約90%は膵管上皮から発生した浸潤性膵管癌です。一般的に浸潤性膵管癌の治療成績は決して良好とはいえず、治療に難渋することもしばしばです。2003年に発表された日本膵臓学会膵癌登録によると、通常型膵頭部癌切除約4,700症例の検討で5年生存率は13.0%、生存期間中央値は12.3ヶ月と報告されています。私たちはこの難治癌に対して、いかに最善の治療を提供することが� �きるか積極的な姿勢に立ち、日々格闘しています。現在のところ切除が長期生存に至る唯一の治療法ですが、術後も高率に再発を来たすことから当施設では適切な手術を中心とした集学的治療(後述)の確立・普及を目標としています。当科における最近10年間の膵癌切除例の5年生存率は30%程度まで向上してきており、最近5年間に限ればさらに向上しているといえます。
b. 膵癌の特徴と治療
膵臓は門脈という太い血管がすぐ後を通っており、この血管の右側を膵頭部、左側を膵体尾部と解剖学的に分類しています。これは同じ膵臓内でも癌のできる場所により症状が異なり、また手術術式も異なってくるからです。膵頭部にできる癌を膵頭部癌といい黄疸という症状が出る頻度が高いのですが、膵体尾部にできる膵体尾部癌では黄疸は出にくく発見が遅れる可能性があります。膵臓の周りには神経が豊富で膵癌が神経に浸潤してしまい背部痛を生じることも少なくありません。手術術式は、膵頭部癌に対しては膵頭十二指腸切除術(あるいは全胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術)、膵体尾部癌に対しては膵体尾部切除術(膵尾側切除術)を施行し、頭部と体部にまたがった場合は膵全摘術になることもあります。門脈� ��腹腔動脈などに浸潤した症例でも個々に検討し、治癒の可能性があれば積極的に合併切除を施行しています。
c. 早期膵癌発見の取り組み
膵癌の多くは進行癌として発見され、手術の適応とならないことも少なくありません。いかに早期の段階で発見するかがきわめて大切であり、そのためには膵癌の初期症状を拾い上げ、精度の高い検査が必要となってきます。私たちは、US、CT、MRI/MRCP検査に加え、超音波内視鏡(EUS)、内視鏡的膵胆道造影(ERCP)、さらに管腔内超音波検査(IDUS)などを組み合わせ、極めて厳密な診断を行っており積極的に小膵癌の発見に努めています。
d. 膵癌に対する集学的治療法の導入
膵癌は発見時既に進行していることが多いばかりでなく、膵癌そのものの悪性度も高く、消化器癌の中では最も治療しにくい癌の一つです。たとえ膵癌を手術により切除しえたとしても、術後早期に再発してくることは珍しくありません。私たちは、約30年にわたる治療経験から少しずつ治療効果の高い方法を導入し、現在では、多剤抗癌剤を併用した術前放射線化学療法による局所再発の制御、術直後からの門脈内カテーテルからの抗癌剤投与による肝転移再発の予防、そして、ここ数年の間に効果が証明されたゲムシタビン(ジェムザール)やS-1(TS-1)などの抗癌剤を積極的に使用し、治療成績は確実に向上してきています。
現在、我々の行っている新たな試みは下記の通りです。
1.膵癌術後補助療法としての抗血小板剤の有効性と安全性の検討(pilot study)
2.切除不能悪性腫瘍による胃・十二指腸狭窄(gastric outlet obstruction)に対するThrough the scope typeのSelf-Expandable Metallic Stentの有用性に関する検討
3.5-FUおよびHeparinの門脈内投与を中心とした多剤抗癌剤(MMC、CDDP)併用による膵癌術後補助療法の有用性に関する検討
4.膵癌切除可能症例に対するTS-1およびHeparinを中心とした多剤抗癌剤(MMC、CDDP)併用による術前化学放射線療法の有用性に関する検討
5.手術不能局所進行膵癌症例に対するTS-1およびHeparinを中心とした多剤抗癌剤(MMC、CDDP、GEM)併用による化学放射線療法の有用性に関する検討
付1)膵嚢胞性疾患
浸潤性膵管癌のほか、膵臓に発生する腫瘍としては膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN, intraductal papillary-mucinous neoplasm)や粘液性嚢胞腫瘍(MCN, mucinous cystic neoplasm)といった比較的良好な予後を特徴とし、過形成から浸潤癌まで幅広い組織像を呈する膵嚢胞性疾患と呼ばれるグループが存在します。最近これらに対し手術適応が確立されつつありますが、当施設では症例によっては機能温存を目指して膵横断切除などの縮小手術を行っています。
また膵内分泌腫瘍やsolid-pseudopapillary tumor、漿液性嚢胞腫瘍(SCT, serous cystic tumor)といった腫瘍も上記疾患と類似した検査所見を示すことがあります。それぞれ悪性度が異なるため前述の画像検査を組み合わせて詳細な鑑別診断を行い、最適の治療方針を決定しています。
付2)膵・胆道疾患に対する経乳頭的内視鏡治療の実践
膵・胆道系は、解剖学的にアプローチすることが難しい臓器でありますが、近年内視鏡技術の進歩は目覚しく、以前手術が避けられないような疾患に対しても、経乳頭的内視鏡治療が可能となってきました。黄疸の原因となる胆管狭窄に対するステント治療など、様々な病態に対して積極的に内視鏡治療を施行し、安全かつ質の高い治療を行っています。
(4) 十二指腸乳頭部腫瘍
a. 十二指腸乳頭部腫瘍とは
肝臓で産生された胆汁は総胆管を通って十二指腸に流れて食物の吸収に役立ちますが、総胆管の十二指腸への開口部を十二指腸主乳頭(ファーター乳頭、または大乳頭ともいう)と呼びます。この部分には総胆管のみでなく、膵臓で作られた消化酵素を含む膵液の通り道となっている主膵管も開口しており、複雑な構造となっています。十二指腸内に開口する直前の総胆管・主膵管周囲にはOddi筋が取り囲んでおり、胆汁や膵液の流れを調節しています。上部消化管内視鏡検査の普及とともにこの十二指腸乳頭部にも、決して多くはありませんが、良性腫瘍である腺腫が発見されるようになってきました。これは腺癌に進行する可能性もあるため、詳細に検討した上、治療の適応と判断されれば個々の症例毎に最適なオーダーメード治療を原 則として施行しています。
b. 十二指腸乳頭部腫瘍に対する低侵襲治療
現段階では乳頭部癌に対しては全胃を温存する幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が第一選択となりますが、十二指腸乳頭部腺腫に対しても従来根治性という点からは膵頭十二指腸切除が標準術式と考えられていました。しかし、近年では内視鏡機器の発達と内視鏡診断の進歩から、乳頭部腺腫に対しては内視鏡的乳頭切除による良好な成績も報告されるようになってきました。私たちは、術前検査でより精密な診断をすることができれば、内視鏡的乳頭切除、あるいは経十二指腸乳頭部切除も乳頭部腫瘍に対する根治的完全切除術式になりうると考えており、積極的に縮小手術に取り組んでおります。原則として、乳頭部腫瘍の進展範囲からは段階的に治療戦略を立て、腫瘍の胆管、膵管進展がそれぞれ否定された場合は内視鏡的乳頭切除を� ��膵管進展が否定され胆管進展のみ疑われた場合は経十二指腸乳頭部切除を、膵管進展が明らかな場合は幽門輪温存膵頭十二指腸切除を選択し、さらに、腫瘍の局在が胆管、膵管に及んでいなくても、内視鏡下に切除するには大きすぎると判断した場合には、経十二指腸乳頭部切除の適応と考えています。個々の症例ごとに詳細に検討することにより、過不足のない治療が可能になると考えています。
(5) 胆石症、総胆管結石
a. 胆嚢結石症
当科では胆嚢結石症及びそれに伴う急性・慢性胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋腫症に対する手術を年間約120〜150例行っています。外来待機可能な患者様には術前検査として腹部超音波、経静脈的胆道造影(DIC)を一般的な検査に加えて行っており、炎症の程度を評価した上で患者さんと手術方法について御相談しています。当科では積極的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を適応のある患者さんに対して提示しています。クリニカルパスも外来より導入し、大きな合併疾患の無い患者さんの場合手術前日に入院頂き、術後3日目に退院という4泊5日入院での治療が可能となっています。急性胆嚢炎に対しては診療ガイドラインに基づき消化器内科との連携を行いながら、緊急手術、胆道ドレナージ術を含めた全身管理を行っています。
また我々は臍部のみの単一創から胆嚢摘出を行う単孔式内視鏡手術(TANKO)をいち早く導入し、低侵襲性および整容性の向上を目指しています。現在、日本国内で急速に広まりつつある術式となっており、定型化を進めていく予定です。
b. 総胆管結石症
総胆管結石症及びそれに伴う急性胆管炎に対しても診療ガイドラインに基づいた保存的治療を消化器内科と連携しながら行い、状況に応じて手術を行っています。保存的治療により改善の見られない、又は重症な急性胆管炎に対しては24時間対応可能な内視鏡センターでの内視鏡的胆道ドレナージを、内視鏡的アプローチが困難な患者さまでは経皮経肝的胆道ドレナージを選択しています。総胆管結石症に対しては内視鏡的アプローチにより乳頭括約筋バルーン拡張術ないし乳頭括約筋切開術を施行し採石術を行っています。大きい総胆管結石でもほとんどの場合は内視鏡的に砕石することが可能ですが,内視鏡的治療が困難と判断された場合は手術も行っています.全身麻酔下の手術を希望されない、又は危険であると判断される患者� ��までは経皮経肝胆道ドレナージチューブを留置の上でESWL(体外衝撃波)やEHL(電気水圧衝撃波)を併用した結石症に対する治療も行っています。
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